4月27日(水)「平岡九条の会」と「旅システム」共同企画の上記の旅が実現しました。コロナ感染は依然高止まりでしたが、GW前の少し落ち着いている時でした。

 総勢35人を乗せた行きのバスの中では、清田区に住むアイヌ問題研究者荒木幸穂さんのレクチャーがありました。近年のアイヌ問題に関する新聞記事のほか、荒木さんのレポート「同化政策を謝罪しなければならない」(『人権と部落問題』22年2月号〈特集〉「アイヌ民族の先住権と人権保障を求める闘い」所収)の冊子が配られました。
 表題の様にアイヌの同化政策について、未だ謝罪をしない政府が背景にあって、TVのお笑い芸人の認識不足のコメントや、閣僚の差別発言が続いていること等の問題点が語られ、それを克服しているオーストラリアやカナダの紹介もありました。

 最初に、そんな問題の一つでもある、そしてほとんどのツアーが行かないという博物館から1キロ離れた所の「慰霊施設」を訪れました。海の近くの見晴らしの良いところに建つ、灰色の簡素ながら壁に施された紋様が趣ある建物で、北大その他の大学などで調査といって盗掘された遺骨が収められています。「土から生まれ、土に還る」というアイヌの死生観にそって、遺骨は地元の受け入れがあるまで預かっている—ということのようですが、今迄にここからそのように移っていった遺骨はまだないそうです。その隣には様々な行事を行うための建物のほかに、この慰霊施設を象徴する背の高い鮮やかなアイヌ紋様のモニュメントが聳えていました。「空に向かって伸びる様子は、平和を希求する思いと民族共生の理念を表している」と説明版にありました。色々問題を抱えた「慰霊施設」ですが、その問題そのままに多くの人に訪れてもらいたいと思いました。

 その後、白老観光商業共同組合盛悦子理事長の、地元白老の観光土産物店の存続を訴えてきた経緯、元財団法人アイヌ民族博物館館長のアイヌ問題研究家中村斎(いつき)さんの話を聞きました。
 観光組合盛さんのお話は、国立博物館が白老に建設されることになったことに伴って、土産物店の土地を譲渡せざるを得なくなり、営業権は確保したものの仮店舗での営業も難しく次第に組合員が減る中、白老独自の観光土産物店としての存続を訴えてきた経緯でした。そしてついに昨年テナント施設の建設を町が承認し、今年の4月から新たな店をオープンするに至ったとのことでした。「ウポポイ」建設の陰で、今迄の伝統を守って行こうとする観光土産物店組合の粘り強い運動があったことは感慨深いものでした。
 中村さんは、白老がアイヌ部落の象徴のようになった経緯を、歴史をさかのぼって語られました。和人と呼ばれるヤマト民族が、先住民族アイヌを抑圧して作り上げた北海道。その虐げた側の子孫としての自身の存在とどう向き合ってゆくか、贖罪意識を持ち、その思いをこれからの子どもたちにも伝え、皆がそうした思いを共有してゆくこと。そして、これからのアイヌの「自立」はどうあるべきか等、奥深い考えさせられる話でした。
 こうした地元の方との話し合いは、「旅システム」ならではの意義深い催しです。
 昼食は待望の「カウボーイ焼」。この日は白老牛ではなく、アメリカ産の牛肉だそうですが、大きな塊を小切りにした焼肉の後、窓の外で新しくブロック焼きしたばかりのローストビーフを目の前で切りながらの食べ放題。じゃがバターに野菜サラダ、ごはん、スープのほかに普段は出されないというガーリックライス、デザートは地元のペネショコ芋で作ったお餅の入ったお汁粉と、ふんだんに戴きました。
 満腹の午後の最初は、盛さんたちの運動が実った土産物店ポロトミンタラ(白老観光インフォメーションセンター)と、開店間もない盛さんのお店ポンエペレで買い物をして、いよいよ国立アイヌ民族博物館へ。

 近代的な建物は背景のポロト湖とうまく溶け合って、広い敷地は入口から工夫が凝らされています。まずアイヌ舞踊を観劇する建物へ、大勢の客とともに列を作って入りました。映像を駆使したバックの中での見事な舞踏でしたが、昔の素朴な踊りも懐かしいような……。博物館の中もゆったりとした空間で、見易く分かり易くアイヌの生活文化の中で使われた調度品や衣服などを展示していましたが、同化政策が進んだ明治以降の差別や格差を生んだ歴史などももっと展示してほしいと思いました。DVDで通史を流してはいましたが、アイヌの立場に立ったより詳しい映像が望まれます。アイヌの誇りをもって「神謡集」を翻訳した知里幸恵や、研究者の知里真志保、復権を進めてきた萱野茂や野村義一ら多くの携わった人々の説明や、民族衣装アットウシの作り方の映像など様々な工夫はありましたが、苦難の歴史に迫っていない物足りなさも感じました。
 「ウポポイ」とは「みんなで歌う」という意味とのこと。多くの若い人が見学していましたが、「民族共生」を目指すというときに、先の中村斎さんの話した精神が果たして伝わるだろうかという思いと、しかし、初の「国立」博物館ができたことの意味は大きいだろう、ここから始まるのではという思いとが交錯しました。様々に問題を孕んでいますが、一見の価値ある、多くの日本人に見てほしい「象徴空間」だと思いました。

木村 玲子